ウエーブ編2



 早川さんが降りてきた。多分、32,000ftはクリアしているので、獲得5,000mは間違いない。やったね!3ダイアモンド。記念写真を撮ってあげた。実は、この時点で彼は日本記録を更新し、日本で初めてグライダーで1万メートルを越えた 男になっていたのでした。

 地上で、トニーと話したら3機あるG103のうちの一機を使っていいという。G103はデマンド・タイプの酸素システムを持っているので高度の制限はない。早川さ んのレポートでは、32,000ftでも、まだ上がれそうだったと言うことなので、 「じゃ、ウインドウの上限を上げるよう交渉するので、日本記録に挑戦しろ」と トニーが言う。再度、バロを準備しG103(N794G)をチェックする。後席の後ろに巨大な酸素ボンベが積んであった。トニーから、デマンド・タイプの酸素システムのブリーフィングを受ける。

 デマンド・タイプの酸素システムは、ノーマルで は自動的に、純酸素と空気をその高度の最適値にミックスしてくれる。また、レバーの切り替えで、酸素100%にもできる。トニーから、爪の色がブルーになっ たら酸素が足りないので、100%にしろ、と注意を受ける。また、ノブを45,000 にしたら、肺に強制的に酸素を送り込むシステムになる。酸素が流れているかをみるには、計器板に取り付けられたブリンカーをチェックするだけでよい。 ブリンカーの色が黒と黄色に交互に変われば、OK。このシステムは、息を吸うときだけ酸素が流れるので、コンスタント・フローよりも酸素の消費量は少ない。 酸素をボンベに補給してもらって準備完了。

 酸素の残量が、1/3になったら、 降下を開始しろと注意を受ける。 右足に予備の酸素ボンベを縛り付ける。何で足に縛るかというと、万が一、 ベイル・アウト(脱出)したときのためだそうだ。 左足には、ハンディのGPSをベルクロで固定する。


[ウエーブ装備]

 いつのまにか、空港の北側にレンズ雲がはっきりと形成されている。風も強くな り、15〜20ノット吹いている。横風の中を15時7分に離陸。曳航中、ローターが 強いことを考え、再度ハーネスを締め直す。一発目より荒れていたが、それほどでもなかった。ハイウエーの上でウエーブに入ったことを確認して、9,100ftで離脱。 獲得高度を意識して、なるべく低く離脱した。ウエーブで少し上がった 後、ノッチを付けるためにダイブで、500ft落とし1分間ホールドする。

 長い 1分の後、ダイブしめると・・無い。ぎりぎりで離脱したため、ウエーブを外してしまったみたいだ。あーあ、と思いながら風下側の丘の上に行く。那須で も、 ローターの中を上がっていったので、まあ同じだと思いながら、サーマルを 探す。 途中7,800ftまで下がってしまうが、運良く強いサーマルをヒット、 10,000ftに上がる。 風上側に機首をむけハイウエイの方にのばしていと、急に静かになってバリオがスーッと上がっていく。やった、再度ウエーブに入った! もう少し先に延ばすとバリオは、 10ノットを指ようになった。丁度上昇率が 1,000ft/minなので、本当に高度計の針が秒針のように回っている。

 現在地点をGPSのウエイポイントに記憶させる。 機首は、風上に向け速度を調整し、 地面に対し静止するような感じで対地目標を 外さないようにする。ハイウエーを目安にした。途中少しでも上昇率が良かった ら、再度ウエイポイントに記憶する。15,000ftで酸素マスクを付ける。酸素が漏れないように結構きつくしめた。20,000ftをすぎても、+10ノットで順調に 上がっていく。

 一瞬視界が真っ白になった。やばい、雲に入ったか?と思ったらすぐ突き抜けた。 どうも、いつのまにか後ろに流されレンズ雲の下にあった薄い雲のレイアーを 突き抜けたみたいだ。雲の絨毯と雲の天井にはさまれた上下数十メータの回廊を 速度を付けて出口に向かった。横をみると回廊がどこまでも続いていた。幻想的 な光景だった。

 ウエーブ雲が下に見えるようになってきた。ポジションのチェックと、対空警戒 と、高度と上昇率のチェックと、酸素残量とブリンカーのチェックと、手袋を外 して爪の色のチェックを交互に繰り返す。

 30,000ft近くになるとさすがに上昇率が落ちてきた。それでも4ノットぐらい はある。この時のウエーブ・ウインドウの上限は、30,000ft。トニーに30,000 ft、4ノットを無線でレポート。酸素マスクに、マイクが付いているんだが、 ちょっとしゃべりにくい。トニーから「上限を上げてもらうように交渉するから、 30,000ftでホールドしろ」と無線が入る。ホールドしていたらじきに「ミンデ ン・ウエストは36,000ftまでオープンされた」とアナウンスがあった。

 ホールドをやめ、上昇に移る。この高度になると、地上目標によるポジションの確保が難しくなってくる。高度が上がりすぎてちょっとした視差の違いが大きなずれになるからだ。ここで活躍したのがGPS。メモリーしていた、ウエイ・ ポイントを呼び出し、ナビゲーシヨン・モードにして、ウエイ・ポイントを外れ ないようにした。低高度で上昇率のいいところは、高高度でも上昇率がいいみたいだ。たいてい、上昇率が落ちてきてGPSをチェックすると、背面に流されて いる。少しでも上昇率を良くしようと、ついつい速度を抜いてしまうからだ。 少し速度を付けてウエイポイントに近づくと上昇率が回復する。これを何回か繰 り返した。

 33,000ft位からは、上昇率が+2ノットにおちる。ベンチレータは吐いた息を 後ろに吹き飛ばすために全開になっている。吐いた息がキャノピーに付いて凍る のを防ぐためだ。それでも、ある程度凍ってキラキラしていたが、外が見えない ほどではなかった。ここで、念願の凍ったキャノピーと自分の写真を数枚写す。 上半身は太陽が当たるので比較的寒さを感じないんだが、足が冷たい。飛行機曳 航用のレリーズの穴から直接足元に冷気が吹き付けてくる。計器板の外気温度計 は、-40度Cで止まっているが、予報では、この高度は-50度Cになっていた。 体がだんだん冷えてくる。

[凍ったキャノピー]

 35,000ftになると高度計がじりじりとしかあがらない。ポジションを少し変え サーチするが、あまりかわらない。じっと上がるのを待つ。こうなったら時間を かけて上がるしかない。酸素は、まだ半分残っている。

 やっと、36,000ftまで高度計が上がった。もうほとんど上昇しない。急に寒さ で体が震えだした。こりゃ危ないと思って、酸素を100%にして降下を開始する。 幸い、数分で震えは止まった。レンズ雲の風下側の、沈下の大きいところで降下 する。ダイブを調整し、-10ノットを越えないよう降下率を調整した。トニーの指示でなるべく時間をかけて降りろと言われていたからだ。急激な温度変化がゲ ルコートにクラックをいれる一番の原因だと言う。高度が15,000ft以下になっ たら、-5ノット位に降下率を落とす。17時50分にランウェイ21で風に正対させて 着陸。

 足は、降りてもまだ凍えている。オフィスで足を手で暖める。事務のキャシーが 「無線の声がふるえていたよ」といっていた。トニーに、バロを開けてトレース をチェックしてもらった。最高36,600ft、獲得28,800ftだった。多分両方と も日本記録だ。 35,000ftを越えたので、アメリカのサイモンズIIももらえることになった。 再度、記録に挑戦していた早川さんも帰ってきた。彼も、高度計読 みで、36,000ft上がったという。バロの結果は、彼は35,400ft。彼もサイモ ンズIIだ。 (サイモンズ賞は、ウエーブ・フライトの開拓者、ロバート・サイモンズを称えて設けられた賞。 30,000ft以上だとサイモンズI、35,000ft以上だとサイモンズII、40,000ft以上だとサイモンズIIIがもらえる)>

[サイモンズ賞]

 トニーが二人のためにシャンパンを開けてくれた。記録が取れたのもうれしかっ たが、それよりも、昔からジェット旅客機に乗る度「この高さまで、グライダーで上がれたらいいなー」と思っていた夢が実現できて本当にうれしかった。

この夜、一人でワインを痛飲する。


[5/2のバログラフ]



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